1Q84
先日の連休中に村上春樹さんの新作「1Q84」を読み終わりました。
上下巻1000ページの長編でしたが、いつまでも読み続けていたくなるような深い小説でした。
6月に連載された読売新聞の村上さんへの独占インタビュー記事を読んでいたので、この作品を書いた背景をある程度予習でき、じっくりと味わいながら読み進めました。
「書きたいのに技術的に書けない、ということはずいぶんと少なくなってきた」というように、これでもかというような巧みな比喩表現、まるで浮かび上がってくるような緻密な人物造形の描写(牛河さん再登場!)、物語全体に包み込まれた多義的な隠喩に何度も部分的に読み返しながら咀嚼しました。
総合小説を書きたいという村上さんがこの作品に込めたものは何か?あまりにも多くのことを考えさせられるのですが、大きなテーマとしては作中に誰もが想像するあのカルト教団が起こした事件をモチーフとして「善悪や倫理を一面的にとらえることができるのか」ということではないかと思いました。
インタビュー記事にもありましたが、9.11のテロやそれ以前に国内であったサリン事件、神戸の震災でわたしたちの意識の中で現実と非現実が同居している現代、村上さんの小説のリアリズムとノンリアリズムが共存する作風は時代に求められ、それが国際的に評価が高い理由ではないでしょうか。
小説はミステリー・ハードボイルド調、深い恋愛小説でもあるのですが、とくに青豆さんとカルト教団のリーダーが対峙する章と、天吾さんが父親を初めて療養所に訪ねる章が深く心に残りました。