みなさん、さようなら
昨年はますます仕事が忙しくなりながらも、好きな読書は得意の「ながら読書」などで結構楽しめたのですが、ちょっとインプレを書くのも恥ずかしいような誰でも知っていうような純文学の名作ばっかり読んでいたので、年明けの休みくらい爽やかな青春小説でも読みたいなあと思っていたところ、また書評で良いとあったので久保寺健彦さんの「みなさん、さようなら」を一気に読みました。
高度成長期に建った団地に生まれ育つ少年が主人公なのですが、小学校卒業後、中学校へは行かず一歩も団地の構内から出ずに生活をしようとするのです。結局30歳になるまで外の世界には出ないのですが、その理由はネタばれになるので書きませんが、現代的なシリアスなテーマでした。
そもそも設定が変わっているので、物語途中にその理由を知るまで読ませます。しかもふつうの青年なのでもちろん団地内で恋もするし、性にめざめたり、仕事や人間関係で挫折も多いに味わいます。赤裸々な性体験の描写なども多く、だれでも共感できるような人間の成長過程を爽やかに書いた、リアリティーのある等身大の青春小説といった感じでした。
ただ読後感はいまひとつグッとくるものがありませんでした。設定が興味深いのにテーマとの絡みが単純明快で深みがなく、題名のつけかたもちょっと?でした。まあ、それでもこれだけの長編を飽きさせずに読めるのは面白いということかもしれません。