藤原伊織さんと「テロリストのパラソル」
ニュースで作家の藤原伊織さんが亡くなったと聞きました。
以前からガンで闘病中というのは知っていたので、そんなに驚きはしなかったのですが残念です。
と言っても私は代表作で直木賞と江戸川乱歩賞をダブル受賞した「テロリストのパラソル」しか読んだことはないのですが、ひさしぶりにあの独特なハードボイルドの世界を思い出しました。
冷戦は終っていたものの、今ほどには世界がテロの脅威にさらされていない時代でしたから、9.11のNY同時多発テロのときはテロリズムに関して紙面に藤原さんの談話を見た記憶もあります。
主人公は全共闘世代の心の傷を背負ったアル中の中年男性で、新宿の小さな自分の店でバーテンダーをやっているのですが、その店の食べ物メニューはなんと自家製のホットドッグのみ。ただそれが絶品で、訪れる客はおかわりをしていきます。寂れた店で男が丁寧にホットドッグを作るシーンの描写が秀逸でとても印象に残っているのですが、本当に美味しそうで自分でマネをして作りました。きっと同じ行動をした読者は多かったのではないでしょうか 😀
筋書きもハードボイルドミステリーとして十分楽しめた覚えがあります。テロリストとパラソルという言葉の結びつきも未読ではなんとも想像がつきませんが、なかなか叙情的で、結末まで引き込まれる、作者の筆力を感じさせる作品です。